(良かった!フーッ!何とかなった)

これだけの時間があれば、優紀の仕事も完了したと思えた。

まぬけな銀行員も気が変わったと思い、重い腰を上げるだろう。そして、万が一にも、取引会社の重役待遇の人間の悪口を言うほど低脳な銀行員はいないだろう。

一息つくと、すぐに次の仕事にかかった。

有限会社の登録は柳沢と会社設立屋に任せ、僕はまだ行われていない重機備品と実験材料に使うプラチナなどの入札の催促の電話を入れた。

「社長、CTは諦めましたが、初めに約束した備品類はいつ揃うのですか?」

「それなんだが、色々な角度から検討させてもらったが、いくつか疑問点があるのだよ」

受話器を持っている指が震えた。……勘ずかれたか!?と、いう危惧が生まれたのだ。

「…と言いますと?」
と、こわばった口でぎこちなく聞いた。

「まず、電子顕微鏡なんだが、先生のリストによると、1億分の1センチまで見分けられる新発売の物になっているが、従来の物でも充分だと思うんだがね?」

指の震えがおさまった。……バレたわけではないようだ。

「うーん、これは譲れませんね。0.1マイクロ以下の直径のウィルスを観察するには、光学顕微鏡や従来の物では役不足です。新発売の物がどうしても必要です」

「しかし、値段も倍違う。わかってくれませんか?」

「それでは大学の設備の揃った所に帰らせていただきます。幸い約束の20億もまだいただいていませんし」