「僕だ。すぐに例の物を返す必要が生じたんだが、8階の男子トイレの前に来てくれないか」
僕は8階に行くと、トイレに隠れた。
優紀はすぐに来た。
「僕が秘書と白木を呼び出すから、優紀はこの金庫を戻してくれ」
「わかったわ」
僕は秘書室にノックもしないで入った。
そして、驚いて目を見開いている秘書に、
「約束通り、内緒でデートに誘いに来たよ」
と、小声で言った。
「もう、乙女をからかわないでください」
彼女も小声で言った後、眉間についていた皺(しわ)を目許に移動させた。
僕はまんざらではないなと思った。………本当は日頃の態度で、シルバーグレーに変身した僕に男性的興味を持っているのを薄々感じていたのだ。
僕は会心の笑顔を作ると、ゆっくりと彼女の後ろにまわり、キャスター付きの椅子をクルッと回した。
彼女が正面を向いた時に、椅子の腕を掴み止めた。そして彼女の両肩を掴むと、驚いている彼女の唇を奪った。そのまま手を背にまわした。
時間を置いて、彼女の腕も僕の肩にまわってきた。
僕は唇を離すと、彼女を横に抱き、部屋を後にした。
隣の会議室に入った。
「何するんですか?やめてください」

