結局、誰に聞かれてもいいように、普通であたりまえの言葉を暗号に選んだ。だが、これにも落とし穴が考えられた。非常に混同しやすい言葉なので、暗号を間違えて言ったり、解釈する可能性がある。それを防ぐために、何度もなんどもしつこいほど練習した。今となっては、優紀が間違いなく暗号を解釈し、打ち合わせ通り行動を起こしてくれるのを祈るしかなかった。
僕のほうは、白木をここに20分釘付けにする任務があった。……優紀の部所からここまでは約4分かかり、着替えをして、作業完了までの所要時間は20分と計算した。
時計を見ると、ジャスト11時半だった。
「どうしました?先生」
白木が僕の横顔を覗き込んだ。僕は笑顔を作った。
「ちょっと、愛しい彼女の短縮を押し間違えたようです」
「焦る気持ちはわかりますが、慎重にお願いしますよ」
今度は秘書室の番号を回した。
「水島です」
『まぁ先生、どのようなご用ですか?』
「いや、君を朝食にお誘いしようかと思ってね」
白木の笑い声が後ろから聞こえた。
『……どうしましょう?』
「待ってください。後ろにいる紳士に悪いから、今度、こっそり連絡いたします」
『もう、ご冗談ばっかり!…いったい何のご用ですか?』
「社長は目薬工場の内線番号508にいますから、デートの誘いはこちらに回してくださいね」
僕のほうは、白木をここに20分釘付けにする任務があった。……優紀の部所からここまでは約4分かかり、着替えをして、作業完了までの所要時間は20分と計算した。
時計を見ると、ジャスト11時半だった。
「どうしました?先生」
白木が僕の横顔を覗き込んだ。僕は笑顔を作った。
「ちょっと、愛しい彼女の短縮を押し間違えたようです」
「焦る気持ちはわかりますが、慎重にお願いしますよ」
今度は秘書室の番号を回した。
「水島です」
『まぁ先生、どのようなご用ですか?』
「いや、君を朝食にお誘いしようかと思ってね」
白木の笑い声が後ろから聞こえた。
『……どうしましょう?』
「待ってください。後ろにいる紳士に悪いから、今度、こっそり連絡いたします」
『もう、ご冗談ばっかり!…いったい何のご用ですか?』
「社長は目薬工場の内線番号508にいますから、デートの誘いはこちらに回してくださいね」

