「うん。これは出資金の領収書を作り、そこに押印するためだよ」

「そんなのは調べられたら、お終いじゃないですか?」

「俺は、この仕事を何年やってると思ってんだ!!」

突然、その男は大声を出した。

僕は大声よりも、隅のボックス席にいるカップルたちの視線の方に肝をつぶした。

男は話を続けた。
「法務局の連中は株式の場合はかなり細かく調べるが、有限の場合は今まで一度も調べたことがない。…プロのやることに口を出さないでもらいたいね」

僕は彼なりのプロ意識に触れ、かえって彼に任せてみようという安心感のようなものが生れた。

「お任せします」

「うん。では、さっき言った物が用意出来た時点で仕事に入る。それから、小切手と手形帳が揃ったら、会社を必要経費と手数料との交換で引き渡すということで宜しいかな?」

「随分明朗会計ですね」

「信用第一ですからね」

と、男は高笑いした。僕らも一緒に笑った。


僕は優紀の家に来ていた。

彼女に白木夫婦の実印と印鑑証明を少しのあいだ借りてこられるかい?と質問した。……彼女はすでに2年前から白木の会社(㈱生体科学製薬)にもぐり込んでいるのだ。

「えっ!?普通他人の私にそんな大切な物 貸さないでしょう?」
と、驚いたように答えた。