青春を取り戻せ!

それは絵画のキャンバス作りの助手だった。
来る日も来る日もキャンバスにカンナを掛ける作業に従事した。腰痛になったが、木の質とマッチするようにカンナの刃の出しぐわいまで判断できるようになった。
例の色々な検査は、ここにはノコギリやキリ、数え上げればきりがないほどの沢山の刃物が置いてあるので、凶暴性はないか、情緒は安定しているかなどを調べ、人選をしてからこの工場に配属されたのだと思われた。

僕は一緒に働いている柳沢というイケメンの詐欺師と友達になった。

彼は他の懲役とは少し違っていた。

他はシャバでの悪事の数や重さを自慢したり、物事をすぐ腕力で解決するという姿勢で、口先だけは調子いいが、浅はかで低俗で信頼できないやからばかりだった。お陰で何度も暴力に巻き込まれる経験も積んだ。

しかし柳沢は、彼らよりはインテリだった。色々本も読んでいて、サガンからはじまり、ドフトエフスキーなどのロシア文学をほとんど読破していた。

彼はシャバでは探偵をやっていたということだった。

では、何故ここに来たのかと聞くと、同時に正義感のある詐欺と泥棒もやっていたと言った。

正義感のある…とはどんなのかを聞くと、ターゲットは役場や学校、病院などの公共施設専門ということだった。それらの施設は驚くほど警備がお粗末で、学校の職員室の机から給食費や旅行の積立て、病院ではロッカー荒らしなど、易々と出来たそうである。

…公共施設を襲うから正義感があるとは思えなかったが?

次に、なぜ探偵というりっぱな職業があるのにそんなことをしたのか聞くと、日本では警察がしっかりしているので、アメリカやイタリアなどのようにこの家業は成り立ち憎いと言った。