「………little princess…」

囁くような、微風のように響く声に振り返ると、一面の浜辺だった。

一体いつから彷徨っているのだろう、右手の甲に浮かぶ紋様はそこだけが別の生物のように蠢き、時に激しく、時に優しく脈打つ。

「…此方です。……little princess」

再び囁くような声が響き、少女は正面を向く。すると、今までいなかったはずの少年が姿を表した。

「…small king、そこにいたのね」

ひとりで流離っていた浜辺に突然姿を表した少年に対し、少女は柔和な笑みを浮かべる。その笑みは、まるで我が子を見詰める母のようで、まだ年端もいかない少女には不釣り合いなように思えた。

「父上がお呼びよ、行きましょう」

そっと差し出された手は透き通るほどに白く、幼子特有の柔らかさを持つ。

「僕が、エスコートします」

意志の強い真剣な眼差しで射抜かれ、少女は紋様の浮かぶ手と少年の手を絡める。

「えぇ、お願い」

小さく微笑むと、少年もまた微かに笑んだ。