強面野郎が可哀想。
あんなに近くで一番何か言ってたはず。
何言ってたかは忘れたけど。
ごめんなさい。忘れてごめんなさい。
申し訳ない気持ちでいっぱいな私とは裏腹に視界に入ってきた強面野郎はめちゃめちゃ笑顔で輝いていた。
…なんかよく分からないけどこんなに思っていた私が馬鹿だってことはよく分かった。
自分のツッコミに疲れた私は下っ端にジロジロと探るような目線をプレゼントされながら黙って黒髪の後をついて行く。
2階に続くであろう階段を登り終えた時、一つの扉の前で止まる黒髪。
そこに来てずっと背を向けていた黒髪が振り返る。
そして1度、ニヤリと口角を上げ何も言うことなくそのままドアを開けようとする。
が、私は慌ててそれを止めた。
「ここ、入っていいの?」
黒髪の手を押さえたまま思ったことを聞く。
2階にある部屋。
恐らくここは幹部室だ。
希龍の幹部以上しか入れない部屋。
その場所に敵の私がズカズカと入れるわけがない。
どんなに心の中で思ったとしても何も知らない黒髪にそれが伝わるはずがない。
「あぁ」
そう言うと共に押さえていたはずの私の手はいとも簡単に解かれドアが開く。
そうなってしまっては逃れる術はなくその現状を受け入れるしかなかった。

