「ここに居たのか」
開けっ放しのドアに寄り掛かったまま話し出す黒髪。
私はまた空に視線を戻し、その言葉に「うん」とだけ返す。
「まぁ、いい」
何がいいのか。私には全く理解できないまま次の言葉を待つ。
「着いてこい」
その言葉に反応し、再び黒髪に視線を向けたのを後悔する。
また、だ。
彼の真っ黒な瞳に捉えられたまま動けない。
それはまるで"逃がさない"と言われているようだった。
だとしても。私の答えは決まっている。
「行かない」
眠たいし何よりめんどくさい。
無駄な体力は使いたくないからね。
なんてことが許されるはずもなく、
「なら連れてってやる」
なんて言いながらしっかりと腕を掴まれる。
別に頼んでないのに。
寧ろ行きたくないのに。
考えれば考えるほど憂鬱になる。
とは言え、もちろん私が振り解けるはずもなく「行くぞ」と言いながら歩き出す黒髪に付いていくしかなかった。