審査員長のおっさんに引きずり回される久保田を見て…
あれが俺じゃなくてほんとに良かったと心から思っていた。
馴れ馴れしく久保田の体を触っているおっさんを見てゾッとして鳥肌が立ったから…
あれが俺だったら「馴れ馴れしく触んじゃねーよ、おっさん」と言ってたかもな…
「うわぁーキモッ!」そう呟いたら
「はじめまして、3位に入賞した小原君だよね?
審査員を務めた…立花健(タチバナケン)です。
僕は君の作品が大賞だと今でも思ってるんだけど…力及ばず僕も残念だよ。」
そう話し掛けてくれたのは顔こそ知らなかったけれど、彼の生み出す作品は良く知っている。
こんなグラフィックデザイナーになりたいとずっと憧れていた人物だったから。
「ありがとうございます…はじめまして、小原蓮です。
こちらこそ、憧れの人に審査して貰ったのに力量不足でお恥ずかしいです。」と殊勝な事を言ってみる。
「…どうして、作品が2点とも入賞したのに?」立花さんはそう言って笑っている。
「…げっ…」バレてるよ。
「大丈夫だよ、僕以外はその事を知らないから…」と立花さんは何だかとても楽しそうだ。
「立花さんにバレてるなら…失格じゃないんですか?」


