あれは確か私が10歳の時…
夜中にトイレに行きたくなって目を覚ましたら…
両親の寝室から母の泣き声が聞こえてきて体が震えるほど驚いたのを覚えている。
そっーとドアに近付き中の様子を窺い見ると母が父に抱きしめられながら号泣している。
母を抱きしめている父も静かに涙を流している。
両親が泣いているところなど見た事も無かった私は、大変なことが起こったに違いないと思ったけれど…
何故か今は聞いてはいけない気がして静かに後ずさり部屋に引き返した。
そして朝、母から『秋山のおじさまが病気でお亡くなりになられた』と告げられた。
告別式には家族全員で参列した…
昨日の涙がまるで嘘みたい…母はいつもの様に穏やかな表情をしている。
告別式が終わって秋山のおばさまと母の会話でその理由が分かった…
「『葬式では泣いてくれるな…未練が残って成仏できないからなぁー皆にも言っとけよ!』って笑って言うのよ、ホント勝手なんだから…」秋山のおばさまは泣き笑いの表情で母にそう言った。
母も涙を堪えて微笑みながら…「うん・うん」と相槌を打つ
「あの人と結婚してからお正月休みにゆっくりした事なんて無くて、
どうしてこんな人と結婚しちゃったんだろう?って後悔した事もあったけれど…
今日こんなにも大勢の方が秋山とのお別れに参列して下さって…
私、この人と結婚できて良かったって改めてそう思いました。
もう年末年始の大宴会が出来なくて残念だわぁー」
おばさまは寂しそうにそう呟いた。
おばさまの言葉を聞いた母が
「今度からは我が家でやりましよう…
そんなに大きな家ではありませんけど…
奥様にはいろいろ教わりたいので是非お越しください。」