「…完全に場違いだった…」
何処かで落ち合うよりも、雨衣が尽の通う高校に出向く方が目的地に近い。
そんな考えから尽に連絡を入れずに高校の正門で待つ事にした雨衣は丁寧に挨拶をしてくれる下校する生徒達に笑顔で応じているが内心は後悔していた。
「雨衣、ごめん待たせたよね?」
しばらくして慌てた様子で正門から出てきた尽の背中越しに自分への注目が強まっているのを雨衣は感じる。
「あ…うん…」
「15分位待たした?その位から雨衣が居た気がしたんだけどな…」
尽への返事もそこそこに、早足で歩き出す。
「思ったより目立たかな?次からは別の場所で待つ様にしなきゃね…他校の女子高生ならまだしも…スーツ姿の社会人じゃ悪目立ち」
神社までの上り坂の途中で、さすがに息が切れた雨衣が立ち止まりバッグからジップ付きの袋を取り出す。
「男子校だしな…多くはそのまま僧侶や神職になる様な跡取り息子ばっかりで全国から集まってるし寮生活でしょ?単に女の人が珍しいんだよ」
袋を受け取りながら刃が笑う。
「だけど…」
「悪い奴等じゃないと思うんだけど…絡まれたりした?」
高速で首を縦に振る雨衣の首筋にいつもの様に顔を寄せる。
目的である神社への急な坂を上ると大きさに圧倒されてしまう様な鳥居が出迎えてくれる。
「あ…鳥居の奥じゃ無いかも…」
尽が立ち止まり、少しだけ顔を上げ深呼吸する。
尽が示すのは神馬がいる馬房だった。
二人が近くに寄ると人懐っこい白馬が顔を出す。
「びっくりした…」
「日本の原種かな?サラブレッドより小さいよね?」
雨衣とは違い、尽は馬に近づく。
「お詳しいですね…馬房に御用ですか?」
馬に手を伸ばそうとするが声に手を止める。
「あ…すみません勝手に…わっ…」
引っ込めようとする尽の手に馬の方からの擦り寄って来る。
「あの…知新博物館の学芸員、巡です」
「知新博物館の?私は禰宜を務めております畝と申します…」
「当館に持ち込まれた十二天将の像二体がありまして…その調査で…こちらは何か十二天将に関する物をお持ちですか?」
名刺を取り出し渡すと畝は確認して袖に仕舞う。
「関する物ならありますが…宮司にお会いになられた方が…あの…彼は大丈夫でしょうか?」
雨衣が振り返ると馬に制服の肩口を甘噛みされる尽が居た。
「大丈夫です…人懐っこい子ですね」
(もっと撫でろ)と催促する神馬の鼻筋を撫でてやる。


