学芸員の憂鬱


「じゃあ…俺の能力の事とかは?…気持ち…悪くない?」
少しだけ尽の声のトーンが下がるのを感じる。

「考えた事なかったけど…」
少しの沈黙の後に雨衣が答える。
「羨ましいかな…」

「俺の能力が?」

「ううん…能力だけじゃなくて、尽君が」

「俺?」
思いもしなかった答えに素っ頓狂な声を出し、立ち止まる。

「私の勝手な考えね…私に尽君と同じ能力があったなら…絶対に自分の為にしか使わないと思うんだよ」
雨衣も立ち止まる。

「… …」

「尽君は誰かの為に使ってる…多分、そんな人だから持てる能力なんだよ…あれ?私…何言ってるんだろ…」
照れた様に顔を背ける。

「いや…自分の為に使ってるよ…雨衣を探したり、博物館でも」

「私を見つけるのは別としても…博物館の依頼の時は気持ちが同調してるからだと思う…さぁ…謎を解こう、見つけてやろう…って同じ考え」

「雨衣…」

「なんか…話が飛んだよね?何の話してたっけ?」

「雨衣の家。蔵があるんでしょ?」

「そうだけど…実家の近くじゃ珍しくないよ。びっくりされるのは庭…」

「庭?広いの?」

「庭って言うか…家が建ってる敷地が…古墳なの…古墳群の上に」
いつも人に話すと引かれてしまう雨衣は躊躇いがちに告げる。

「古墳ってお墓?誰の?」

「詳しく調べてないけど…」

「今度行ってみたい…俺、鹿を見たことないんだよ」

「いや…鹿は何処にでもいる訳じゃないけど…そう思われがちだけど…じゃあ…本を返しに行く時にでも…」

「本当?」
嬉しそうに尽が振り返る。

「うん…襖絵が解決したらね」
雨衣も笑ってみせた。

とは言え…明日、尽用のサンプルを作る為に襖に手を加える。
侘助が居れば失敗する事は無いだろうが、初めての作業になる。

「じゃあ、頑張らないと」

「サンプルが上手く取れてればね…学校、明日は?」
市バスの定期を探す雨衣を立ち止まって待つ。

「あ…進路指導がある…雨衣はどんな風に決めて博物館を選んだ?」

「どんな…って…侘助さんと余り変わらないかも…」

「侘助さんと?」

「侘助さんも元は表具屋さんの仕事を見てて…でしょ?」

「雨衣も家の仕事?」

「ウチは父親はサラリーマンだし、母親も主婦だけど…奈良に呼び戻されたら家が古墳でしょ?」
定期入れに入った小山に積まれた石の写真を見せる。

「これが古墳?」

「思ってたより小さいでしょ?」