「騎士ねー。
…クスッ、いいよ。アンタの言う騎士になってあげる」
俺は女に近づき金色の髪を一房取りながらそう言った。
「少なくとも俺が“タノシイ”と思ってる間はアンタに服従を誓ってあげるよ」
「ツマラナイと感じたら?」
「そりゃ、すぐに新しいトコロに行くよ」
「あはっ!それじゃあ退屈させないように頑張らないとねー」
女は傍にあった手すりの上に座ると足を組んだ。
「服従の誓いの印。…知ってる?」
妖しく笑う女に俺も笑う。
そして、女の前で跪き、右の脛にキスを落とした。
──脛へのキスは“服従”という意味。
「キミがこういうロマンチックな事知ってたなんて意外ねー」
「前に読んだ詩かなんかに書いてあっただけだよ。というかアンタが知ってた方が驚きなんだけどー」
フランツ・グリルパルツァーの詩だっけ?
すぐに立ち上がり女を見下ろしながら言う。
「女はこういうのは知ってるもんだよ」
女も手すりから立つ。
「頑張ってあたしを守ってね、あたしだけの
騎士(ナイト)さん?」
…あははっ。
「上等。守ってあげるよ、お姫様?」
アンタに利用されてあげる。
そして、
俺もアンタを利用してあげるよ。
──こうして、俺と可笑しな女との奇妙な関係が始まった。


