「久司君」

 その言葉とともに、僕の顔を覗き込む。

 彼女は放課後になると、早速僕を迎えに来た。

 そのとき、教室から浴びせられた視線で、彼女が男から人気があるということを実感した。


 三田の言葉はあながち嘘ではなかったのだろう。

 外見的には分からなくもないが、中身は本当に変わっているのに。

 性格を知って、彼女が好きと思うやつは変人でしかないと思う。


「笹岡先輩は彼氏いたんですか?」

「久司君が始めての彼氏」

 要は誰ともつきあったことがないということか。

「今、笹岡先輩って言ったよね」

「言いましたけど」

 何かテンポが一つずれている気がする。

「それってあんたから先輩ってことは少しは進歩したってことだよね」

 また笑う。

 それもこっちが恥ずかしくなるような笑顔で。

 僕は彼女から目をそらした。

「一応先輩ですから」

「あ、敬語は使わなくていいよ。ため口でOK」

「そしたらあんたって呼ぶけど」

 彼女は不服そうな顔をした。

「茉莉でいいよ。わたしだって久司君って呼んでいるんだから」