冷たい風が僕の体を吹きつける。

 やけに今日は寒い。

 もう十一月も中旬に差し掛かっている。

 今年はもう僕の誕生日に茉莉花が咲いていないだろう。

 そう思える寒さだった。

 もう奇跡を望む必要性もない。だから、それでいいと想いつつ、寂しくもあった。

 僕の家の前に人影を見つける。

 彼女は僕を見ると頭をさげる。

 彼女の姿は以前見たことがあった。

 それはあのときだった。

 父親と一緒に歩いていた女性。幸せそうに微笑んでいた二人の姿。

 昔のことなのに、さっき見てきたかのように鮮明に蘇る。

「藤木久司さんですよね?」

 思ったより低い声だった。

「はじめまして。わたしは岡村咲枝といいます」

 岡村とは父親の苗字だった。彼と彼女は正式に婚姻をしているのだろう。彼女の告げた苗字がそう物語っていた。

「あなたのお父さんと」

 彼女はそこで口ごもっていた。