彼女は肩を落とすと、安堵の息を吐いたようだった。いつもは自信たっぷりな表情がなんだか崩れていた。

 僕はそれ以上は何も言わずに弁当を食べることにした。

 しかし、半分ほど食べて気づく。

 笹岡茉莉は僕の顔を覗くだけで、何も食べようとはしなかった。

「食べないのか?」

 そのとき彼女の表情が一瞬、引きつる。

 その表情を見て、嫌な予感がした。

「もしかして、これあんたのじゃ」

「そんなことはないよ。ちゃんと久司君のために作ろうとしたの」

 もう名前で呼んでいるし。

「それなら飯は?」

 彼女は傍らに置いていた鞄から弁当箱を取り出した。

 僕に渡したものよりも一回りは大きい。

 確かに食べないよりは食べたほうが健康的だろう。

 しかし、彼女はお箸を握ったまま、それを開けようとしない。

「教室に戻って食べようかな」

「お腹が空いていないのか?」

「そうなの」

 そう言うのを待っていたように彼女のお腹が鳴った。

 しっかりとお腹が空いているんじゃ。

 彼女は頬を膨らませると、顔を背けた。