僕の目の前に差し出されたのはトマトだった。

「はい、あーん」

 僕はそれを手でつかむと口の中に放り込む。

「一度やってみたかったのに」

 彼女のこの変な気質はどうにかならないのだろうか。

 僕の前ではこんな感じなのに、本当人前では真人間を演じているのが何だかおかしい。

「別の人でやってください」

「それなら二度としないから敬語やめてくれる?」

 考えてもみなかった方向に話を切り出してきた。

 これが狙いだったのではないかと思うほど、確信を込めた笑みで僕を見る。