三田の口から語られたのは想像さえしていなかった言葉だ。

 茉莉先輩。

 どこかで聞いた名前だと思った。

 その直後に蘇るのが腕をつかんだ変な女の勝ち誇った笑み。

「昨日の女? 知らないよ。だいたい初対面だから」

 三田は僕の席を立つ。

 だが、席の近くを離れるつもりはないようで、今度は前方に回り、机に手を置いた。

「そうだよな。でも、昨日の会話を聞いていたらまさかと思って」

「だから、その茉莉って誰なんだよ」

「わたしでーす」

 軽い口調の女の声。

 三田と話をしていて、侵入してきた人影に気づかなかった。

 顔をあげると、昨日と同じ茶色の髪が揺れていたのだ。