ねぇ、ぼくじゃダメなの【短】

もうすでに、お湯は沸いていて湯気が出ていた。

ちょっと手を伸ばせば消せる近さなのに、手が動かない。

「やだ、許さないよ」
「えっ…、きゃっ」

俊哉の言葉と同時に、クルリと回され壁に押し付けられた。

「俊哉さんっ、お湯っ…」
「へぇ。そんな余裕あるんだ?悪いけど、ぼくにはそんな余裕ないから。もう我慢なんてしない」

そう言って押しつけられた唇。

何度も何度も角度を変え、美味しそうに吸い付いてくる感触に真帆の目もトロンとしてきた。

「ほら、ぼくのこと気になってるんでしょ?キライなら、こんな目にはならない」
「としや、さんっ…」
「まったく、素直じゃない子。いいよ、ゆっくり確実に君を落とすから。覚悟しててよね?」

俊哉は最後に小さく触れるだけのキスを残して、給湯室から出て行った。

「もう、完全あなたに落ちてるみたいです……」

真帆は、ゆっくりと腕を動かし火を止めお茶を入れると、みんなのところへ配りに回った。

俊哉のところへは、一番最後に、手紙を添えて。

“もっと、あなたのことが知りたいです”



end