ねぇ、ぼくじゃダメなの【短】

「ねぇ、あれってどういうつもりなの」

急に声を掛けられ、後ろを振り向こうとしても振り向けない。

「ねぇ。イヤなら、この手振りほどけばいいでしょ」

顔を見なくても、声で分かる。

耳元に唇を近付けて、ゆっくりとした口調で、ちょっとイジワルっぽくした喋り方。

後ろから抱きしめられてる時の腕、匂い。

全てが、真帆を刺激する。

そうだ、イヤなら振りほどけばいい。

頭では分かっているのに、それができない。

「あ、の…っ。お湯、沸いちゃってるっ」
「ふーん。で?」

やっと出した声なのに、冷たい俊哉の態度に体が反応する。

「真帆ちゃんから見てきたくせに、ぼくが笑ったら君は目を逸らしたよね」
「あっ、あれは……」
「すっごく傷付いたんだけどな、あれ」
「ご、ごめんなさいっ…」