ねぇ、ぼくじゃダメなの【短】

そして、ドキドキというよりは息も心も止まってしまうんじゃないかというほどに、何も考えられなくなってしまっている。

「……ぁ」

ボーッとして見ていたら、真帆の視線に気付いたのか俊哉が真帆を見てニコリと微笑んだ。

その瞬間の衝撃は、初めてのことだったかもしれない。

裕介の時にはなかった、この感じ。

どうしよう…。

もうすでに、恋をしているのかもしれない。

あんなに裕介のことが好きで、別れるのもイヤだった。

なのに、人の心はこんなにも早く忘れることができるのだろうか。

だから裕介も自分じゃないオンナに、心が奪われてしまったのだろうか。

いや、自分の場合はきっと好きだと言われて脳が勘違いを起こしているだけだろう。

そう考えた真帆は、すぐさま俊哉から目を逸らし仕事に集中した。

そんな日の夕方。

真帆は上司にお茶を頼まれ、「じゃぁ、皆さんのも」と給湯室に一人入った。

お湯を沸かし、全員分の湯呑を出す。

もちろん、そこには裕介のも俊哉の湯呑もあったが、真帆はなるべく考えないように、準備を進めた。