「楽しいデートをしてきたくせにずいぶんとご機嫌が悪いのね」


「別に」


佐知の遠慮のない言葉にイラっとして、低い声で小さく答えた俺を佐知は気にすることもなく、そのままスルーして話題を変えた。


「今度の週末、うちの庭でバーベキューをすることになったの。薫達も夏休み最後の週末だからお友達を誘ったら?」


「バーベキュー?」


佐知の突然の話に俺は首を傾げた。
家の庭でバーベキューなんて、今まで一回もやったことがない。
うちの両親はそういうのはあまり得意な方じゃないと思っていたんだけど……


「理さんね、ああ見えてアウトドア好きなのよ」


俺の疑問を察した佐知の言葉に俺は目を丸くした。
あの理さんがアウトドア好きとか……意外過ぎる。


いかにも仕事ができる大人で落ち着いた雰囲気のある義兄。
色々趣味は多そうなイメージはあったけど、その中にアウトドアが含まれているのは想像もつかなかった。


そんな俺の心の声をまたしても察した佐知は「意外でしょ」とクスッと笑った。


「私達も来月早々に一度向こうに戻るから、その前にと思ってね。理子も理さんに似てそういうの好きなのよ」


「え、向こうに戻るの?」


佐知達がアメリカに戻る話も今初めて聞いた。
どういう経路で佐知達が帰国しているのか詳しくは聞いていなかったけれど、かなり長い期間こっちにいるからもうこのまま帰国するんだと思っていた。


「そう。実は理さんが本格的に海外勤務から本社勤務に戻ることになったの。だから向こうで引継ぎとか引っ越しとかの準備をしなきゃいけないのよ」


「そっか、理さんまたこっちで仕事するんだね」


なるほど。本格的にこっちに戻ってくるからその準備のためにアメリカに戻るのか。


佐知の話に納得した俺に佐知は笑顔で頷いた。