音が、何もしなくなった。


気づけば母親の腕の力は緩まっていて、簡単に抜け出すことができた。


立ち上がって、後ろを見た。


…そこに広がっていたのは、幼い子どもには酷すぎた光景。


少しも動かない死体、おびただしい量の血。


…恐ろしかった。


それでも、守ってくれた人が立っていたから。


血まみれだったけれど、立っていたから。


だから、歩み寄った。


その、瞬間。


その人は前のめりに倒れた。


倒れたその体は、周りの死体と同じように、少しも動かない。


母親がその人の名前を呼び、駆け寄った。


…たぶん、もう事切れていたんだろう、母親は泣いていた。


それでも、その体を葬ることはしなかった。


『いいんです、このままで。この人は特別な人だから。…お礼を言いなさい、守ってもらったのだから』


母親は、泣きながら手を合わせた。


それにならって、手を合わせた。