どちらかというと兄貴肌で、周りに慕われていたミツアキが、急に無謀なチャレンジをするようになった。
あたしに対しても素っ気なくなった……というか、他の事に夢中になっているようでおざなりになった、というか。
夢を語っている姿は、嫌いじゃなかった。
だけど、その夢の中にあたしの存在はないんじゃないかと不安だった。
そんなある日、ミツアキが差し出したのが一冊の本。
「これ、俺が今一番ハマってる本。読む?」
著者名に目をやると、そこには城田博人の文字。
「これって……よくテレビで見るあの社長の?」
よく見れば本のタイトルも《価値と勝ちを手にする為に》という、ビジネスマンが読みそうな自己啓発本のように見える。
女子大生のあたしにこれを読ませようとするなんて一体どういうつもり?
……そう思いながらも、ミツアキがあたしと同じ時間を共有したいと考えてくれた気持ちをまずは大切にしよう、と受け取った。
「それにしてもミツアキがこういう本読んでるなんて意外」
呟いたあたしに、ミツアキの不敵な笑み。
「人生変わるぜ?」
平凡という名の安定が、ぐらりと音を立て脆く崩れていく予感。
それでも、あたしはミツアキの心の中が知りたかった。