「アレン。準備出来たか?」
「ああ!いつでも行けるぜ」
「僕も自分の寮に戻るっす!
頑張るっすよ!アレン!」

セラが寮まで迎えに来て、
リキに見送られながら、
二人は人間界へと向かった。

・・・

パァン━━…
銃声音が鳴り響く路地裏。
首に掛かる十字架のネックレスが揺れ、
金色の髪も揺れる。
左目から伸びる傷は消える事もなく
傷は出来てから2年経った今でさえ
美しかった“彼女”の顔に忘れるなとばかりに痛々しく残っている。
治癒力に優れていた彼女でさえ、
綺麗に治せる事の出来なかった傷。
彼女は治らない原因を知っていた。

「ラウル様?」
「?」

ふと名前を呼ばれ、
声のした方向へ顔を向ける。

「貴女が人を殺すなんて……」
「レイか……」

燕尾服に身を包み、
懐かしむ様に彼女を見る彼の目には、
薄っすら涙が溜まっているのが確認できる

「ラウル様……お屋敷にお戻り下さい。
お屋敷に戻ればこんな事を
しなくてもいいんです!
どうか、お屋敷にお戻り下さい!」

レイが頭を下げて懇願すると
ラウルはそっぽを向いた。
顔の傷は、裏切らない証。
ラウルとアレンが別れたあの日から
ラウルの心にはポッカリと穴が開いていた
その内にラウルは引き裂いた
天使や神を恨む様になっていた。
しかし、アレンも天使で
自分も天使だったと言う事がわかり
ラウルは複雑な心境だった。


「私はあの家に戻れない。
この顔でどう戻れと言うんだ……
誰も愛してくれないさ……いや、
元から愛されてなどいなかったか……」
「その顔の傷は……」
「これは……裏切らない証
*特殊警察の一員となった時に
リーダーにつけられた傷だ」
「なっ!!」

ラウルは、レイを睨みつけると

「私は、特殊警察の一員となって
悪を倒し、国に仕えて生きている。
もうあの屋敷の御令嬢じゃない。
わかるか?お前の知っている
ラウルはもういないって事だ」と
言うと、背を向けて路地裏の深くまで
歩いて行った。


特殊警察・・・
悪を徹底的に排除・粛清する、
警察機関。国に仕えてはいるが
王族や貴族だとしても
悪を働けば容赦はしない。
正に絶対正義の意のままに行動している。