「てか、傘、させば?」
マリリンが言った。
動揺するわけでもなく、目が泳ぐわけでもなく、あたしのほうが場違いであり、間違ったことをしていると錯覚するほど。
「ハマチとデートでしょ?」
「あんたにカンケーないし」
「ハマチ、お弁当作ってた。にんじんカップも食べさせたいって。ハマチはあんたに…」
「ハマチって呼ぶなって言ったよね‼」
マリリンの声は、この世の果てまで聞こえるくらいだ。
動じなかったのに、イラついている。
「今ならまだ間に合うよ」
「はぁー?」
「ハマチが一生懸命作ったんだよ。いつも言ってるもん。料理を作る時は、食べさせたい相手の笑顔を思いながら作るって」
「あんた、マジでそれ言ってんの?」
マリリンは、その場を去ろうと腕を引く男子を突き飛ばした。
「マジでムカつく。お前みたいな、誰からも好かれる、柔らかい女。踏み潰してやりたい。お前みたいなんが1番、厄介で、周りを傷つけてんだよ‼」
世界の果てまで、あたしのことを罵倒し、マリリンは行ってしまった。
明らかに公園ではない。
マリリンの言霊が頭の中でリフレインするが、それどころじゃない。
あたしはまた走った。
雨は。
地面を叩きつけていた。



