「僕は…」
ハマチが口を開きかけたと同時に。
「あたしもう行かなきゃ‼」
あたしは走り出した。
振り返らないで、全速力で、ハマチの視界から消えるために走った。
ハマチはこれからマリリンとデートする。
にんじんカップを食べたら、少しはマリリンも素朴になるかもしれない。
そう。
さくらんぼの愛は、恋じゃなくたっていいんだ。
ココロを好きなればそれだけで。
そのまま家に帰るには落ち着かなかったから、お気にのカフェでお茶をした。
ココロ。
ふと思った。
あたしは、先輩のココロが見えているんだろうか?
筋肉にかたく守られた、心に触れることはできるのだろうか?
ぱらぱら。
雨が降ってきた。
少し長居してしまった。
良かった、傘もってきて。
あたしはカフェを出て傘をさそうとした。
その手が止まる。
あたしの目は、ピンクの可愛い傘に釘付けだったからだ。
マリリンだ。
マリリンは傘をさしていた。
あたしは咄嗟に駆け出していた。
「デートじゃないの?」
雨脚が強まってきた。
傘をさすことも忘れるほど、体がカッと熱くて、マリリンを睨みつける。
「カンケーないし」
足早に逃げようとするマリリンの腕を。
「ある‼」
あたしは掴んだ。
そこでようやく、隣にいた男と繋いでいた手が離れた。



