「何一人で笑ってんの?」
「おう、史兄。おはよう」
「なんでんな爽やかなんだよ、気持ちわりぃ…」
うっわ、毒舌。
それにしても、
史兄はいつも完璧だ。
弟の俺でさえ、史兄のパジャマ姿や寝癖なんて見たことない。
すげぇなぁ…
「そういや、さ。あの娘帰ってきたんだな」
俺の部屋を指した指。
………瞳は違うところを向いていたけれど。
「うん、帰ってきた」
「うーわ、嬉しそう」
「うっせ!」
「……壱斗、」
「ん?」
俺より少し背の高い史兄を見た瞬間
背筋が凍ったかのような感覚に襲われた。
あぁ、あの瞳だ……
史兄の、あの、冷たい瞳…
「あまり真剣になんなよ?真剣になっても、惨めになるだけだ」
「ッ、」
真剣に、俺が姫乃を愛してることに気付いていて
俺を、いや、俺の気持ちを見下したかのように笑った。
「史、兄……」
この人はまだ、忘れていない。
“あの日”のことを。
「壱斗、お待たせ!…あ、史斗さん!おはようございます」
「…あぁ」
史兄が、俺と姫乃を見ることは
もうなかった。
*

