「送ってく」
後ろから雅斗さんの声がする。
あれから何日か経って
私は偽物の笑い方を覚え始めていた。
「ありがとうございます」
雅斗さんに向かってニコッて微笑むと、気付いているのかいないのか
いつも通り微笑み返してくれる。
返事は……まだしていない。
学校に着くと、雅斗さんはいつも通り私の頬にキスをして
私は雅斗さんに微笑みかけてから車を出る。
そう、『いつも通り』。
壱斗のいない日々が当たり前になっていた。
壱斗のいそうな場所を避けて、絶対に会わないようにしても
壱斗の噂だけは絶対に耳に入ってくる。
部活のない日は必ず、美和さんの高校まで足を運んで一緒に帰るらしい。
そういえば……、美和さんは壱斗の部屋で暮らしているのかな?
私の荷物は……
そう考えた瞬間、サーッと血の気が引いていく気がした。
壱斗の邪魔、しちゃいけない……
今日は壱斗は部活だから、壱斗のいない間に取りに行こう
そう思って、静かに放課後を待った。
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