あの頃は親父が怖くて怖くて…
母さんは親父の言うことは絶対だという態度をとっていたし
親父に逆らえる者は誰もいなかった。
大きな会議やパーティーなどがある時
必ず親父と母さんは俺と史斗の手を引いて屋敷を出る。
壱斗は……、そんな姿を一人、泣きそうに見ていた。
壱斗はいつも一人ぼっちで
雷が鳴っても、台風が来ても
いくら『怖い』と泣き叫んでも壱斗を助けてくれる人はいなかった。
あんな広い屋敷の中で一人ぼっち……
幼い壱斗はどれだけ怖い思いをしたんだろうな。
親父と母さんは、壱斗を一人ぼっちにする代わり、いろいろな物を与えた。
おもちゃ、ノート、鉛筆……
俺や史斗にはとても厳しい両親が、壱斗には優しくて
壱斗は物が欲しいわけじゃないと気付くこともできなかった俺と史斗は、壱斗を妬むようになっていた。
壱斗は『怖い』と泣いていたのに
『一人にしないで』『僕も連れて行って』と叫んでいたのに
俺も史斗も、両親も気付くことができなかった。
壱斗が欲しいのは
傍にいてくれる誰かの温もりであることに
自分を必要としてくれる、誰かの存在であることに。
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