「雅兄が……」
………は?
「雅兄が慰めんだろ?昨日も一緒にいたくせに。俺が……俺が姫乃心配して探し回ってる時に」
「………」
なぁ、壱斗
お前今、昔と同じ瞳してるぞ
気付いてねーのかよ
「あぁ、いたよ。『男除け』効いたみたいだな」
『男除け』
姫乃に俺の香水の匂いをつけることで、
俺の匂いに敏感な壱斗を牽制した。
「おかげで……、姫乃と別れて美和さんと結婚する決意ができたよ」
そうか
お前は結局
「お前は、昔から一つも成長してねーんだな」
「………」
昔の傷は一つも癒せないで
心はガキのまま身体だけ成長してる。
「気付いてねーのかよ……お前の精神安定剤は姫乃なんだよ」
姫乃といる時の穏やかな幸せそうな顔
気付けよ、バカ壱斗
「親父が……、」
「あ?」
「親父が、初めて俺を必要としてくれたんだ」
「………っ」
そう言った壱斗の瞳は、あの時の瞳と同じで。
……もう、何も言えなかった。
『お前は、お父さんにもお母さんにも愛されてないんだよ!』
幼い日の傷がまた、痛み出していた。
癒してくれる彼女はもう、ここにはいない。
*

