近くの公園に来た壱斗は私をベンチに座らせた。
壱斗は私の前にしゃがむと、私の頬を撫でた。
「……姫乃」
「………」
「姫乃、俺…」
やだ
やだやだやだ、言わないで…!
手を耳にあてる。
目も瞑ると、頬に壱斗の温度だけを感じて幸せになれる。
お願いだから、この些細な幸せを壊さないで……!
壱斗は頬から手を離して、私の手を耳から離す。
「頼むから、聞いて」
聞きたくない。
でも、聞こえてしまう。
ギュッて目を瞑っても
壱斗の残酷な声は聞こえてくる。
「俺……
他の人と結婚する」
う、そ……
嘘でしょ?壱斗………
壱斗が私を選んでくれたんでしょ……?
ねぇ、壱斗……!
「俺を罵ってくれていいよ。嫌いになってくれていいよ。俺は、姫乃を裏切るんだから…」
嘘だよ
全部夢だよ
壱斗が、私を裏切るわけないよ……
「ごめん…」
そんな言葉、欲しいわけじゃないんだよ……
「じゃーな……」
壱斗が私の傍を離れて去って行く。
ねぇ、夢だよね……?
また、笑って言ってくれるんでしょ?
『好きだよ、姫乃』って……
*

