「姫ちゃん!」
名前を呼んでも、止まる気配はない。
名前を呼ぶのが壱斗だったら…?なんて、くだらない嫉妬をする自分に嫌気がさす。
バカだ、俺……
じゃなくて。
今は彼女を捕まえるのに全力を注がないと。
「姫乃!!」
彼女の細い腕を掴んで、無理矢理こっちを向かせた。
「姫、乃……」
やっぱり。
彼女の顔は涙でぐちゃぐちゃ。
その顔に、俺まで悲しくなった。
「泣かないでよ…」
涙を優しく拭っても、止まるどころかさらに溢れてくる。
抱き締めたい。
抱き締めて、俺のものになって、って言いたいんだ。
でもさ、姫ちゃんが見てるのは壱斗だけだし。
壱斗の隣以外じゃ幸せになれないだろ?
だから、抑えてたのに。
「雅斗さ、助けて…ッ」
「姫ちゃん…」
「苦しいよ…壱斗を好きでいるのが苦しい……ッ」
君がそんなことを言うから。
「壱斗なんてやめろ」
口をついて出る言葉は、きっと彼女を苦しめる。
でも、苦しめる分だけ彼女を救うこともできると思うんだ。
「俺にしとけば?」
彼女の瞳をまっすぐ見つめた後、奪うようにキスをした。
ねぇ、姫乃。
俺、姫乃が欲しいよ
身体も心も全部。
そしたら俺、全力で君を幸せにするのにな……
*

