「緊張する…」
そう言って、秋山さんは苦笑した。
あの後、二人で麻生の家に来ていた。
すべてを史斗さんに話すために。
「お帰りなさいませ……あ」
玄関に入ったところで斎藤さんに会った。
斎藤さんも秋山さんを知っているのか、少しだけ、ほんの少しだけ表情が柔らかくなった。
「久しぶり、亮佑」
「お久しぶりです、秋山様」
「亮佑、ここで働いてたんだな。」
「はい。……恩返しです」
「亮佑らしいな」
斎藤さんは、秋山さんに向かって礼をした。
やっぱり、秋山さんは少し壱斗に似ていると思った。
だって、斎藤さんの表情が変わるのは壱斗の前だけだもの。
「なぜ、姫乃様とご一緒に…?……存在忘れてました」
「な………ッ!!」
「ハハ、まぁまぁ。ちょっと史斗に…用事があって」
そう秋山さんが言った時、カタンと小さな音がした。
「俺には話なんてない」
「史、斗…」
玄関の真正面の階段の上から、史斗さんがこっちを見下ろしていた。
「帰れ。」
そう冷たく言い、史斗さんは去って行く。
……気付けば私は、史斗さんを追いかけていた。
史斗さんを一人にしちゃいけない、そんな気がしたから……
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