「姫ちゃん、だから俺が動けば簡単……」
「だって雅斗さんは、壱斗を愛してるでしょう?」
「…………」
「壱斗は愛情が欲しいんじゃないか、って思うんです」
「え……?」
あの寂しそうな瞳
まるで自分が一人ぼっちだと、思っているような顔
私が愛してると
壱斗が必要だと
言った時の幸せそうな笑顔
全部、“俺を愛して”と言っているようにしか思えないの。
「雅斗さんに愛情があるなら大丈夫。壱斗も雅斗さんも大丈夫」
「…………」
雅斗さんは私を見つめたまま動かなくなった。
「雅、斗さん…?」
ガチャ
「…あ……」
「ッ、壱斗!お帰りなさい!」
握っていた雅斗さんの手をパッと離すと同時に、壱斗の瞳が伏せられた。
「ただいま」
瞳を反らしたまま笑う壱斗。
「壱斗、あの…」
「遅くなってごめんな?お腹空いただろ。今日顧問と話してて…」
壱斗は目を合わせてくれなくて
私の言葉も聞いてくれなくて
すごく、傷付いた顔をしていた。
「ご飯食べよう」
壱斗を傷つけた罪悪感でいっぱいになった私は気付かなかったんだ。
雅斗さんが、無表情で私を見ていたことに。
その雅斗さんを、壱斗が辛そうに見つめていたことに。
*

