ツンデレ社長と小心者のあたしと……



「はい」


無造作にグラスを渡され、我に返った。


手の中の赤い液体の価値。
よく考えれば、普通に生きていたならまず、飲む機会なんてない希少なワインで……。


「飲んじゃって、いいんですか?」


「じゃあ何?一人で全部飲めって?」


「いえ、そんな……いただきます」


この状況でお酒を飲んだら、どうなってしまうだろう。


あたしの反応が気になるのか、じっと見つめる社長の視線を感じながら、一口グラスに唇をつけた。


それは、ヴィンテージのワインとは思えない程に軽く、口当たりの良い柔らかさで、思わずあたしの目が丸くなる。


「知っとくことも大事。この味知らないで、取材なんてできないだろ?」


「まさか、あたしの……為に?」


社長の言うとおりだった。


実際の味を知らないで、写真とインターネットの知識だけで、あたしは何を書くつもりだったんだろう。


「全く……そういう甘いとこばかり見せてるから、ほっとけないんだよな」


ごくりとグラスの中身を飲み干すと、社長は突然あたしをきつく抱きしめた。


「社……長……?」


めまいがするのは、きっとお酒のせいじゃない。


スーツから零れる社長の香水の香りが、あたしを酔わせているのかもしれない。