社長の待つソファーに戻ると、二人掛けのソファーの片側……。
つまり、彼の隣に座るようぽんぽんと叩いてみせる。
今しがた起きた事件のショックで半分放心しているあたし。
けれど、隣に座り肩に手を回されると、その温もりで何もかもがどうでも良かったみたいに溶けてしまうから不思議。
なにもかもどうでもいい、なんて気持ちになる
これは社長が持つ、特殊な力だと思う。
「そんな顔するなって。ちゃんと未開封のがもう一本あるからさ」
「……え?」
「からかっただけ」
……全く人が悪い。
時々こうして社長は人をからかう。
だけど、誰かを傷付けるような意地悪はしない。
こんな風に、あとから安心させて、そんなあたしや誰かを見て楽しんでいるだけなのだ。
それも悪趣味と言えば悪趣味だけど、どうしてか憎めない社長の人柄が全てをありにしているのだと思う。
アラフォーとは思えない、年の割に皺のない白く長い指がワインのボトルを持ち上げ、そして透明なグラスが赤に染まった。
一連の仕草が優雅で、手慣れている事が伺える。
普段は下らない事を言ってあたし達を笑わせ、身近な存在に感じさせてくれる社長。
だけどこんな時、やっぱり遠い世界の人間なんだと気付かされ……胸が締め付けられる。
こんなに近くにいるのに、どうしても超えられない壁がそこにある。

