そんな幸せな日々が、いつまでも続いてほしくて。

私は段々、怖くなったんだ。

先生が、いなくなってしまうことが。

この学校から、私の目の前から、いなくなってしまうことが怖い―――



ある日の生物の授業は、広い視聴覚室を貸し切って、ビデオを見ていた。

普通に実験室で観ればいいものを。

こんなにおっきなスクリーンで、生物のビデオを観るなんて面白すぎる。


そのビデオを観る間、先生は端っこの方でぼんやりしていた。

授業じゃなくても、やっぱり白衣だった。



授業が終わって、私は思い切って先生に声を掛けたんだ。



「先生。」


「ん?」



みんな、どんどんいなくなって、視聴覚室に先生と二人になった。



「あの、……来年も、生物教えてくれますか?」



視聴覚室の電気のスイッチに手を掛けた先生。

そのまま、しばらく動きを止めていた。

私は、告白みたいなその言葉をついに発してしまったことを、ちょっと後悔した。


すると、先生は言ったんだ。



「俺が教える。……異動になったら、知らないけど。」



静かな声でそう言った先生。

私は、ほっとして涙が出そうになった。


異動になるかならないかなんて、まだ誰にも分からない。

それでも、「俺が教える」って言いきってくれた先生が、嬉しかった。



「ほら、電気消すぞ。」



先生がぱちり、と電気を消して、真っ暗になってしまう視聴覚室。

私は慌てて重い扉を押して、先生が来るまで待っていた。



「ありがとう。」



先生はその隙間から外に出て。

振り返って、にこりと笑った。