学園祭の余韻が残る中、生物実験室にいた。



「このカエル、川上先生に似てる。」


「あっきー、ひどい。全然似てないじゃん。」


「晴子は川上先生に甘いの。似てるよ、先生に。」



亜希子と眺めているのは、カエルの入った水槽。

中には、お世辞にも可愛いとは言えないカエルが、一匹。



「川上先生って、なんて名前だっけ。」


「……裕一、じゃない?」



先生の名前。

その大事な名前を、初めて口にした。

なんだかそれだけで、悪いことをしているような気がして、ドキドキしてくる。



「そっか、じゃあこのカエルの名前、ゆうちゃんね。」


「は?あっきー……。」


「裕一だとさすがにばれるから、ゆうちゃん。」



何だか笑ってしまう。

そこから、しばらくの間あっきーと顔を寄せ合って水槽を眺めていた。



「ゆうちゃん、ほら、ゆうちゃん!!」


「ゆうちゃん、こっち向いて!」


「そのカエル、アフリカツメガエルって言うんだぞ。」



はっと顔を上げると、すぐ後ろに川上先生が立っていた。

見る見るうちに顔が赤くなるのが分かる。



「可愛いだろ?」



先生にそう問われて、私はぶんぶんと首を縦に振った。



「可愛い、です。」



何だか、先生を褒めてるみたいで恥ずかしくなる。

すると、あっきーが言った。



「えーっ!全っ然可愛くない!」



それを聞いた先生は、苦笑している。



「ほら、授業始めるぞ!」



先生が前に行ってしまっても。

私は、しばらく顔のほてりを冷ますことができなかった。



だって。



先生もきっと、学生時代はゆうちゃんとか呼ばれていたかもしれなくて。

その響きに、懐かしさを感じたかもしれなくて。


これからもずっと、アフリカツメガエルを見たら、先生のこと思い出す。

そう思うと、ちょっと可笑しかった。