廊下をすれ違う時、会釈する私。

すると、決まって会釈を返してくれた先生。



あの頃は、それが唯一の先生との関わりだったんだ。

川上先生、と呼ばれていたから、苗字だけは知っていた。

それから、いつも白衣を着ているから、理科の先生なのだということも。

4階にいたから、生物の先生なんだって思った。




それだけ。


先生のこと、それ以上には何も知らない。




めったに笑わない口元。


規則的な足音。


たまに走ると、翻る白衣の裾。




私が見ていた先生は、ただそれだけの存在でした―――