そんなこんなで迎えた、2年生最初のテスト。

一日目には、数学と化学があったから、徹夜で勉強してヘロヘロだ。

だけど、明日は私の一番頑張った生物。

その日私は、思い切って川上先生のところに質問に行ってみた。



職員室のドアを開けると、結構近くを川上先生が歩いていた。

忙しいのかな。

そう思って、しばらくその白衣の背中を、じっと見つめていた。



すると、先生はふっと振り返った。



「……俺か?」



こくこく、と頷くと、先生は呆れたような顔で手招きする。


職員室の中には、先生が生徒の質問に答えるためのスペースがある。

大きな白いテーブルと、椅子があるところだ。

先生に促されて、私はその椅子に座る。



「で、どれ?」


「この問題なんですけど、」


「あ、これ?」



その時先生は、ちょっとだけ苦笑いしたように見えた。

私には、ちっとも意味が分からなかったけれど。


結局、先生はすごく丁寧に教えてくれて。

分からなかったところが、全部分かるようになった。

これで、明日のテストも大丈夫だ!



「今日のテストはどうだった?」


「数学が……。」



質問は終わったのに、席を立とうとしない先生にそんな不意打ちの質問をされた。

思わず素直に、そんなことを答えてしまった。

口の悪い川上先生に、いじめられるって分かっているくせに。



「お前、理数系がダメなのか。理数科なのに。」



ほーら。



「はい!理系なのに。」



笑顔で答えると、先生はまたも呆れ顔。



「じゃあ化学も苦手なの?」



こく、と頷くと、先生の腕が飛んできて私は慌ててよける。



「うん、じゃないだろ!」



そう言いながら、先生は笑った。

いつもすごく真面目な顔をしているくせに。

私の見る先生は、最近いつも笑っている。

私が理数科のくせに出来が悪いからかもしれないけど―――


でも、先生の笑顔は大好きだから。

出来の悪い生徒も悪くないなって、そんなことを思ってしまったりして。



「で、希望は?」


「言えません。」


「まさか……医療系とか言わないだろうな。」


「そのまさかですが、何か?」



大きなため息をついた先生。



「まあ、とりあえず明日の生物、頑張れよ。一番になれ。」


「はい!」



元気に返事をしたのは、嬉しかったから。

先生に、一番になれ、なんて言われて。


この頃の私は、自由だった。

まだ、先生を好きになりきってはいなくて。

だけど、その一歩手前で、先生のことが気になって仕方がなくて。

そんな、幸せな頃だったんだ。



先生は、もう分かっていたのかな。

数学が苦手て、医師を目指すなんて無理だってこと。

だけど、諦めろなんて、先生は言わなかったね。

逆に、頑張れって、一番になれって言ってくれた先生を、私は一生忘れないよ―――