センセイの白衣

そして、卒業してから最後の行事。

離退任式。

全員が集まるわけではないけれど、ほとんどの卒業生が来る。


私はこの日までに、少しだけイメチェンした。


いつも結んでいた髪の毛。

まっすぐだけど、うねるのが嫌で。

だから、ストレートパーマをかけた。

3月31日まではこの高校の生徒だから、本当は禁止されているんだけど。

離退任式くらい、多目に見てくれるだろう。

それで、完璧に真っ直ぐになった長い髪を、下ろしてみた。


二年の初めは、首の上くらいしかなかったのに。

先生を好きになってから伸ばした髪は、もう背中の真ん中くらいまである。

月日が経つのって、本当にあっという間だ。



その日の離任式では、何人か知っている先生が異動になった。

その中でも、天野先生が異動だったのは驚いた。

天野先生は、教頭先生になるんだ。


あんなに素晴らしい先生が、授業をしなくなるなんて。

なんだかもったいないな、って思った。


その天野先生の別れの言葉が、印象的で。

私は、ちょっと泣きそうになったのを覚えている。



「私は、教師という仕事をしておりますが、人前で話すことを苦手としておりまして……」



そんな言葉から始まったスピーチ。

でも、他のどの先生よりも心に響いた。

多分それは、私だけじゃなかったと思う。



「長年生きていると、どうしても望みが叶わない時があります。

 私は、大学も浪人したけれど、希望のところに受からなくて。

 
 でも、ひとつ学んだことがあるんです。

 それは、自分が望む環境に、周りを変えていけばいいということです。

 言い換えると、自分が置かれた環境を、最大限に生かす方法を探せばいいんです。


 そうしているうちに、協力者が現れて。

 だんだん、自分が望んでいた環境に近づいていく。

 手に入らないなら、自分で作ればいい。

 
 こんな偉そうなことを言っていますが。

 私自身、今度は教頭として学校を運営していく立場になるということが、正直不安です。

 でも、置かれた場所で、最大限の努力をしようと肝に銘じています。

 
 みなさんも是非、新しい環境で、自分らしく輝いてください。

 さようなら。」



途中から、天野先生は本当にすごいと思った。

さりげないけれど、今の私にぴったりの言葉だった。

聞いていて、涙が零れそうになって。

じっと耐えた。


置かれた場所で、輝けばいい。

そんな当たり前のことに、今初めて気づかされた気がしたんだ。



天野先生が退場する時に、握手した。

先生は、じっと私の目を見て、微笑んでくれた。



「頑張ってくださいね。」



そう言いながら。


天野先生に会えたことも、ほんとうに救いだったと。

心の底から思った―――