センセイの白衣

その封筒と便箋の残りを持って、生物準備室に行った。

もう二度と行くことはない、って思ってたのに。

先生が、私に最後の用事を与えてくれたみたいだって、思った。



「川上先生、これ。残りです。」


「ああ。」



川上先生は、私に改めて、おめでとう、って言ってくれた。

他の人に言われるおめでとう、よりも。

川上先生に言われるおめでとう、の方がずっと嬉しかった。


ただそこには、喜びだけがあるわけじゃないって、知っている数少ないひとだから。

それに、私の大好きな、大好きな人だから―――



「N大には、俺が教えた先輩がいるぞ。色々教えてもらえ。」


「はい。」


「それから、俺の知り合いの教授は、ホトケドジョウの研究をしていてね……」



それから1時間くらい。

先生と、話をした。

あれからもちろん、先生はS大のことには触れなくなったけど。

代わりに、N大の話もたくさんしてくれたね。

おかげで、N大も悪くないって、思えたんだ。


ありがとう、先生。


だけど、私は明日、卒業しなくちゃならないんだ。

この学校にはもう、戻って来られないんだ―――


そして、明日はもう。

こんなふうに、川上先生と話す時間なんて、あるわけがない。


もうこれで、ほんとに最後なんだな、って思って。

でも、そんな実感なくて、また明日も明後日も先生に会える気がして。

だから、涙も出なかった。

いつも通り、楽しく先生と話してた。


最後の最後。

先生が私にくれたもの。

何だと思いますか。


生物講義室に置き去りにされて、何年も持ち主が名乗り出ないノート、ルーズリーフの類。

がさっと持ってきて、私に差し出して。



「大学で使え。消耗品だ。」



って……。


有り難く頂戴した。


最後の最後まで、先生は先生だなーって思った。

そして、そのノートとか、結局使えなくて今も大事にとっておいてる私。



「先生、ほんとに3年間、ありがとうございました。」


「2年しか教えてないぞ。」


「いえ、3年間でいいんです。」



だって。

先生を好きになる前も。


1年生の頃、あなたとすれ違うたびに。

私は安らかな気持ちになっていたのだから―――



「大学でも頑張れよ!」


「はい。頑張ります!」



そう言って。



生物準備室を後にした―――