センセイの白衣

その日のために、用意していたものがあった。

それは、ただの手紙なんだけど。

先生に、面と向かっては素直に言えないこと、書いた手紙だった。


もちろん、先生のこと、好きだなんて書かなかった。

書けなかったよ。


だって。

先生を、困らせたくなくて。


先生にせっかく、少しでも特別に思われていた私なのに。

自分の一方的な思いを伝えてしまったら、先生の記憶にはそういうふうに残ってしまう。

先生が、ずっと後で思い出したとき。

ただ、「先生のことを好きだった生徒」にはなりたくなくて。


それじゃ、意味がなくて。



いつもみたいに、小部屋に呼ばれると。

いつもみたいに、論述の添削を返してもらって。

そして、いつもみたいに下らない話をして。


話の終わりが見えてきてしまったとき。

私は、手紙を差し出した。


なけなしのお金で買った、私には高めのレターセットだった。

半透明で、レース柄の封筒からは、内側の小ジカの模様が透けて見える。

めちゃめちゃ可愛いんだ。



「先生、いままで、ありがとうございました。」



頭を下げながら差し出すと、先生は受け取ってくれたけど……。



「……晴子。こういうのは、……終わってからやれ!!!」



何故か、怒られてしまって。



「だって、先生とここで会えるの、今日が最後かと思いまして……。」


「二次試験は明日だろ!それに、落ちたら後期もあるんだぞ!そうなったら、小論指導は俺がやる!!」



何故か、むきになってそんなことを言う先生。

今から受けるのに、落ちたら、なんて言う先生も先生だよ。

先生の小論指導、受けたいけど。

そのために落ちるわけにはいかないじゃんか。



「絶対、受かりますよ、先生。」


「そうとも限らないだろ?いいか、入試は何があるか分からないんだ!」


「受かります。先生。私がN大ごときに落ちるわけにはいきません!」


「……そうか。……まあ、そうだな。」



先生は、心なしか肩を落としたように見えた。

そんなに私に、落ちて欲しかったの?



「ありがとう。受け取っておくよ。」


「それから先生、これ、書いてくれませんか?」



そう言って渡したのは、メッセージカード。

小学生の時も、中学生の時も。

卒業の時には、友達やお世話になった人に書いてもらっていた。

それが、今ではすごくいい思い出になっているんだ。



「ああ。じゃあ、後で書いてくる。」


「お願いします。」



その場で書く先生もいるけど。

先生は、一度持っていくらしい。

その丁寧さが、嬉しかった。



「お前明日、名前だけは書き忘れるなよ。」



そして、小部屋で先生と会うのは、それが最後だったんだ。