そして。

自由登校になった。

私は、学校にいた。


罪悪感はあったけれど、親には嘘をついた。

小論指導のために、学校に行く、って。


本当は、小論指導なんてほとんどなくて。

私は毎日、生物講義室にいた―――



そこには、二人の普通科の友達と一緒に行っていた。

私は、その二人に生物を教えていたんだ。

もちろん自分も、生物の論述対策を頑張っていたけれど。



そして、いつもそこには、川上先生がいた。



生物講義室の奥には、何の為にあるのか謎な、小さな部屋があった。

テーブルとソファーしかない、すごく狭い部屋。

川上先生は、よく私をそこへ呼んだ。


ほかの二人ではなくて、いつも私だった。

それが、嬉しかったけれど―――


私は、何だか怖かった。

先生とこうして、こっそりふたりきりになることが。

本気になってしまいそうで、怖かった―――



先生は、私の論述問題を見てくれた。

正直言って、私はもう、一人で勉強できたけど。

そうさせてくれなかった先生は、一体何を考えていたんだろう。


私を甘やかしてくれる先生は、私のことをどう思っていたのか、今となっては何も分からないけど。

そうして先生と話しているときだけ、世界から切り離されたみたいで。

何にも考えないでいられた。


初めて突きつけられた、お父さんがいないことの現実とか。

ずっと夢見てた大学を受ける前に、夢が絶たれてしまったこととか。

先生とこうして会えなくなることとか。