毎日、頑張って、頑張って。

これ以上ないというほど、一生懸命勉強した。

そして、どんどん月日は流れて。

ついに、センター試験のひと月前くらいになった日の朝。



「はる、」


「なに?」


「やっぱり、S大にはやれない。」


「え―――――」



突然の母の一言に、頭が真っ白になった。



「どういうこと?」


「お金かかるし、心配だから。S大には行かせない。」


「なに言ってるの?」



母の言葉の意味が、よく分からなかった。

そのくらいに、私は動揺していた。

カタカタと体が震え出して、指先がすっと冷たくなっていくのを感じた。



「何で?何よそれ!おかしいよ。」


「とにかく、そういうことだから。」



そんなの、そんなのないよ。

おかしいよ。


あまりにも衝撃的で、私はもう、何も考えられなかった。

言っていいこと、悪いこと。

それさえも、頭から抜け落ちるほどに。



「お金なんて、お金なんて、そんなの理由にするなんてずるい!!」


「お母さんがお金を出さなきゃ、あなた大学行けないのよ?」


「だって、ひどい!!私、私、……好きで母子家庭の家に生まれたんじゃない。」



はっと、母が息を呑んだ。

分かってる、ひどいことを言っているって。

だけど、だけど―――

生まれてくる家は選べないじゃん。

勝手に離婚して片親にしたのは、お母さんたちなのに。



「お金なら、私……西門良治さんに出してもらうからいい!!!」



西門良治。

それは、私の父親の名前だった。

母が、今まで決して教えてくれなかった父の名前。

私が自分で突き止めた、その名前。


分かってる。

あまりにも、恩知らずなことを言ってるって。

今まで育ててくれたのは、お父さんじゃなくてお母さんだ。

だけど、譲れない。

譲れないよ、お母さん。

これだけは、奪われるわけにはいかないよ。


先生の後輩になるって、約束したんだもん――――



「晴子っっっっ!!!!!」



母は泣き出すし、おばあさんは激昂するし。

もう、ぐちゃぐちゃだった。

すべては、ぐちゃぐちゃになってしまった。


冷静に話し合えば、まだ望みはあったかもしれないのに。

愚かな私は、思わず父親の名前を出してしまって。

だからもう、終わってしまった。

すべては、終わってしまったんだ。



自分の部屋に籠って、毛布を被ってた私。

そんな私の毛布を引きはがして、おばあさんにガミガミと叱られた。

母と祖母が、まるでかたきみたいに私のこと。

そこまで言わなくていいじゃん、っていうくらい罵った。


S大にやれない、って言われただけでも。

私は深く傷付いていたのに。

それなのに、そんなに責めないで。

お父さんのこと、今まで一言も教えてくれなかった母にも、非はあるはずなのに。



「お前なんか、出て行けばいい!!西門の家に行って、大学に行かせてもらえばいいじゃないか!」



祖母に怒鳴られて、私は気付いた。

私、本当に何も考えないで父の名を出したんだ、ってことに。


だって、お父さんは再婚して、子どももいる。

そんな人に、今さら会いに行ったところで。

お金を出してくれるほど、世間は甘くない。

しかも、母と絶縁して、一人で生きていくほどの気概は、私にはないんだってことに―――