もしかして、水嶋?


「もう掃除終わるけど」


私の目の前に現れたのは思っていた人物と違って、予想もしていなかった人。


瀬戸口くんだった。


私たちに近づいて、異変を感じたのか、険しい顔つきになる。


「ねぇ、そのハサミ何?
それに大人数で吉野さんを取り囲んだりしてさ・・・。
いじめ?」


「な、何言ってるの?
ただ私たちはこの子とお話してただけだよ。
ハサミはちょうどここで拾ったの」


「ふーん。
でも何で吉野さんを二人係で抑えてるの?」


「これは、その・・・」


ジリジリと近づいてくる瀬戸口くんに、女子たちは焦りを見せ出す。


「ほら、もうチャイムなるからさ、君たちは帰りなよ。
僕はちょっと吉野さんと話があるから」


「そ、そう。
わかったわ」


女子たちは焦りを気づかれないように平静に保ってみせていた。


女子たちが撤退していく途中、直美に


「彼にこのこと話でもしたらこんなもんじゃないから」


耳元で小さくつぶやかれた。


女子たちがいなくなったのを確認してから、地面にお尻をつける。


「吉野さん!?」


そんな私を見た瀬戸口くんは、急いで私の傍まで駆け寄ってきた。


「大丈夫、吉野さん!?」


「うん、大丈夫・・・。
瀬戸口くんが来てくれてよかった」


「いや、ごめん。
助けるのが遅れて・・・」


「え?」


「本当は途中から聞いてたんだ。
君たちの会話」


「うそ・・・」


偶然通りかかったものだとばかり思ってた。


状況を説明する手間が省けて助かった。


きっと私はうまくごまかすことなんてできそうにないから・・・。


「危なくなったら止めに入ろうと思ってたんだけど、先生に声かけられちゃって、さっきまでここを離れてたんだ。
ごめん、痛かったよね・・・?」


そっと瀬戸口くんの指が私の左頬を撫でる。


ドクンッと一瞬心臓が大きく跳ねた。


あぁ、叩かれたところか。


さっきまでの恐怖で痛みを忘れていたけど、今思い出してまた痛んでくる。


「こんなに真っ赤になって・・・。
僕、真尋にこのこと言ってくるよ」


水嶋に?


「吉野さんがこんな目にあったのは、真尋の周りに居た女の子たちのせいだし・・・」


「・・・水嶋には言わないで」


「え?」


「お願いだから、水嶋には言わないで」


「・・・わかった」


きっと水嶋は自分のせいだと気を病むだろう。


短い間だったけど、一緒にいたからなんとなくわかる。


「立てる?」


「うん」


瀬戸口くんに手を借りて立ち上がり、保健室に向かった。