あの男がいた場所にまた戻ってキョロキョロと小さく辺りを見回す。


でもあの男の姿は見当たらなかった。


よかった、もう帰ったんだ。


そう安堵して歩き始めようとしたとき。


後ろから誰かに両腕を掴まれ、手で口を塞がれた。


「!?」


「やっと・・・捕まえたー」


耳元でつぶやかれる少し低い声に、ゾッと背筋が凍りつく。


「~~~!!」


叫ぼうとしても口を塞がれてるから声もでない。


「大人しくしててよ~。
痛くしないからさ?」


ギリっと掴まれた手に力が入れられて痛みが走る。


誰か、誰か・・・。


水嶋!!


「おい、おっさん。
何してんの?」


「!?」


後ろから声がしてびっくりする。


まさか・・・。


私を押さえ込んだままおっさんと呼ばれた人と体を反対に回して振り返る。


「!」


まさかとは思っていたけど、本当にまさかだ・・・。


押さえ込まれた私の目の前には、すごい目つきで睨んでいる水嶋がいた。


「な、なんだお前!?」


この現場を見られたからなんだろう。


男は酷く焦っているように思えた。


「あんたこそなに汚い手でそいつに触れてるわけ?
放せよ」


いつもの水嶋より少しドスの聞いた低い声。


正直少し怖かった。


徐々に近づいてくる水嶋に、男は腕を握る力を強める。


「っ!」


「く、来るなー!
この子がどうなってもいいのか!?」


まるで人質にされたような気分だ。


「ふっ。
あんたこそ早く逃げなくていいの?
もう少ししたら警察来ると思うけど?」


ストーカーに対して水嶋はうすら笑いを浮かべていた。


「け、警察!?」


「早くしないとあんた捕まるよ?」


「くっ、覚えとけよ!」


そう言って男は私を開放しそそくさと逃げてしまった。


「二度とこいつに近寄んな」


逃げ去る前に、水嶋が男の胸ぐらを掴んで睨んでいたところは少しかっこよかったと認めよう。


・・・少しね。


開放された私は腰が抜けてその場に座り込んだ。


「おいっ!」


そんな私に気づいた水嶋が、駆け寄ってきた。


「大丈夫か?」


「う、うん・・・。
でも、何で水嶋がここに・・・?」


それは会った時からずっと疑問に思っていたこと。


「何でって・・・。
し、心配だったからで・・・」


「え?」


「っ~!
こっちにちょっと用事があったから、ついでにちゃんと帰ってるか様子を見に来たんだよ!
それだけだ!」


何故か顔を赤くしてムキになる水嶋に、首をかしげた。


つまりそれは、心配してくれていたということだろうか・・・?


いや、そんなことあるはずがないか。


もし本当に心配していたとしたら少し笑える。


そんなことを思って、クスクスと笑っていると、水嶋もやっと安心したのか笑みをこぼした。


「やっと笑ったな。
それなら大丈夫そうじゃん」


「うん。
あのさ・・・」


「ん?」


「た、助けてくれてありがとう」


「・・・どういたしまして」


「っ!」


ニッと笑う水嶋に不覚にもドキッとしてしまった自分がいた。


そんなこと絶対言わないけど。


「でも俺で悪かったな」


「え?」


「俺より貴斗の方が良かっただろ?」


「瀬戸口くん?
・・・いや、あのさいもう誰でもよかったかな」


「あ、そう」


「うん」


確かにあの時私を助けてくれたのが瀬戸口くんだったなら、もう本当に惚れ直していただろう、うん。


でも、別に水嶋だったから嫌だったってことはない。


昔の私だったら嫌だったんだろうけど・・・。


それに、捕まったあの時何故か瀬戸口くんじゃなく、水嶋の名前を心の中で叫んでいた。


何でだろう・・・?