「・・・おいっ!」
「へ?」
1人クスリと笑う私の腕を、誰かが掴む。
振り返ると、そこにはさっきまで1人で帰ろうとしていた水嶋がいた。
何故かムッとした顔で。
「何で怒らないんだよ!」
「は?」
「いつものお前ならあんなことされてすぐムキになって言い返すだろ!?」
「あんなこと?」
ひょっとしてべーをしたことについて言ってるのだろうか?
「あんなことで怒んないよ。
それに、あんたが思ってたより嫌な奴じゃないってわかったし」
別に水嶋は女子に囲まれてへらへらしてたんじゃなかった。
水嶋自身も女子たちに困っていたんだ。
そう思うと、イケメンは苦労するなと同情したくなった。
「あー、お前俺のこと嫌ってたんだっけ?」
パッと腕を放して、ポリポリと頬をかく水嶋。
「うん。
でも今は嫌いじゃない」
「え・・・?」
「どっちかっていうと、普通?」
「あ、そう・・・」
期待が外れたみたいにガクッと肩を落とす。
「水嶋?」
「・・・なんでもない。
ま、俺今日はちょっと寄らねぇといけないとこあるから一緒には帰れないけど、用心して帰れよ?」
「うん。
一人なんていつものことだし」
「そっか。
じゃ、また明日な」
くしゃくしゃっと私の頭を撫で、手を軽く上げて水嶋は反対方向を歩いて行った。
そっと撫でられた頭に手を置く。
「何、あれ・・・?」
いきなり優しくされて調子が狂うっていうか、ドキドキしたっていうか・・・。
なんか変な感じだ。
「うぅ、水嶋のことより、瀬戸口くんのことを考えながら帰ろう」
そう自分に言い聞かせて、無理矢理頭の中から水嶋のことを考えないようにした。
顔が熱いのもきっと気のせいだ・・・。