「まさか、俺と一緒に帰れるだけでもありがたく思えって思ってるんじゃ・・・」


そのまさかだったら今ここにいる水嶋をぶん殴ってでもお断りだ。


「違う違う。
俺と一緒に帰るんだったら、貴斗も一緒だってこと」


「せ、瀬戸口くん!?」


瀬戸口くんの名前がいきなり出てきて胸がドキリと高鳴った。


「俺と貴斗、それにお前の三人で帰るなら文句ねぇだろ?」


「そ、それは・・・」


嬉しい限りだ。


でも、水嶋も一緒というのが不に落ちない。


「どうだ、悪くない話しだろ?」


「うーん・・・」


私が考え出すと、さっきまで頬にあった手のぬくもりが消えた。


今まで嫌な奴だと思ってた水嶋だったけど、今日でだいぶ印象が変わったのは事実だ。


たぶんいい方で・・・。


それに瀬戸口くんとも毎日一緒に帰れるということではないか。


こんなおいしい話をみすみす逃すわけにもいかない。


一人余計なのはいるけど・・・。


でも自分で誘うよりはいいと思う。


そう考えるとやっぱりこの話に乗っかるべきなのか・・・。


うーんと悩んでいると、水嶋がしびれを切らしたのか、


「たくっ、どっちなんだよ。
たったイエスかノーのどっちかなんだからさー」


とふてくされているように眉を寄せ、ため息をついていた。


まぁ、水嶋のことそんな嫌いじゃなくなったような”気がする”し、ここはひとまず。


「イエス。
いいよ、その話し乗ってやろうじゃん」


ニッと笑って腕を組む。


「へー。
じゃ、まぁ明日からよろしく」


水嶋も腕を組んで私を見下すように不敵に笑う。


「んじゃ、今日はもう帰るから」


そう言うやいなや、水嶋は私に背を向けて歩き出した。


「え?
一緒に帰るんじゃなかったの?」


不意打ちでキョトンとする。


「バーカ。
お前を連れ出したのは、この話をするため。
最初っから一緒に帰る気はなかったよ」


水嶋は振り返り、言い終わるとベーと舌を出した。


「なんだ、そういうことか。
じゃ、私も気兼ねなく1人で帰れるってことだ」


舌を出す水嶋に、私は怒りよりも喜びの方が大きかった。


よかった。


二日連続で水嶋と一緒に帰ることにならなくて。


「じゃ、また」


私は笑顔で手を振り、水嶋に背を向けて歩き出す。


まさか水嶋大っ嫌いだったこの私が、水嶋本人に笑顔を向けるようになるとは。


昨日の私だったらまったく思ってもみなかったことだろう。


そう考えると何だか不思議で、つい笑がこぼれてしまった。